黄金外伝

Vol.0 再訪

新宿駅。東口を出ると真正面にアルタ。その隣にあった喫茶店「カフェ・ド・ボア」は最近閉店してしまったようだ。新宿通り右手の新宿高野は以前と同じ場所にあるけれど、ビルはすごく綺麗に化粧直しされていて、全く別の佇まいになっている。TOPS、新宿ピット・インはいつの間にか無くなっていた。いや、TOPSのビルは丸ごと建て直しされ、新宿ピット・インは2丁目に移転したのだったっけ。

この辺りで昔からの姿で残っているのは、紀伊国屋書店のビルと、DUGくらいなものか……。

 

昔より確実に明るく綺麗でキラキラになった街並みを、歌舞伎町エリアへと向かい靖国通りを渡る。

新宿区役所前の交差点、その角にあるドーナツショップ沿いに新宿区役所本庁舎方向に向かって、およそ100歩。交差点から1ブロック行ったところを右に曲がると電飾看板が目に入ってきた。

 

「新宿ゴールデン街」

 

そう、この看板。

昔と変わらない。

ここが『新宿ゴールデン街』の西側の入り口だ。

そのまま靖国通りと並行するように東に向かって通り抜けると花園神社。ちょうど神社拝殿の裏手になる。そして、その隣にあった小学校は、今や吉本興業の東京本社としてそのまま使われている。

 

「確か、この看板の手前にストリップ劇場があったはずだけれど……」

 

「新宿ニューアート」と書かれたネオンサインは今も健在だった。ストリップ劇場といえば、入り口に踊り子さんの写真が貼られていたり、ちょっと派手なイメージがあるののだが、ここは昔からいたってシンプルな店構えだ。

 

「入場料、男性は5000円、女性は3000円か……」

 

そういえば、最近ストリップに通う女子、スト女(ストリップ女子のことをそう呼ぶらしい)が増えている、というドキュメンタリー番組がNHKで放送されていた。嬢の追っかけ女子が、劇場で踊り子さんたちの裸に涙する……そんな番組だった。昔は、東京のストリップ劇場といえば、むさくるしい息遣いで溢れるおっさんたちが集まる場所だった。時代はすっかり変わったのだ。

この「新宿ニューアート」は、全国的にも有名な老舗ストリップ劇場「浅草ロック座」の系列店で、人気の踊り子さんがたくさん出演するそうだ。もちろん、この劇場にもスト女は来ているんだろうな……それにしても、区役所の目と鼻の先にあるストリップ劇場なんてここくらいじゃないのか……おっといかんいかん。目的地はここじゃない。

 

「久々にゴールデン街で飲もうぜ」

 

電話をしてきたのは、昔の職場で夜な夜な一緒に飲み回った先輩だった。都内にいるなら、時間さえ調整すればいつでも会えるのだが、病気療養のため、早期退職をして実家の広島に戻っている。かれこれ、20年くらい会っていない。

 

「アニメ『シティーハンター』の新作映画を見たんだけれど、ゴールデン街が舞台だったのよ。なんか懐かしくなっちゃってさ……最近、ゴールデン街が盛り上がっているらしいじゃない?久々に行きたい、と思ったわけ」

 

その映画はまだ見ていないけれど、つい先日、バブル期前後にこの街で働いていたというノワール作家の「ゴールデン街」を舞台にした自伝的青春小説を読んだ。ちょうどボクらと同時代、飲み歩いていた頃の様々な出来事を懐かしく思い出していたところだったのだ。

ただ、そんなボクも、近頃では昔のように飲み歩くことなどはしなくなり、割と地味に暮らしている。夜の街に出かけることもあまりなくなっていた。

 

「“世の中”を知るには飲むに限る。なにより楽しい」と、狭い店内で立ったまま、グラス片手に大声で叫んだり、笑ったり……。知らない人と意気投合して盛り上がったり、たまに、全く見ず知らずの人に絡まれて殴られたりすることもあった……あっ、飛び蹴りも食らったことあったっけ……。

まあ、それもこれも、今となってはいい思い出だ。

 

「ところで『今』のゴールデン街はどんな街になってるんだ?」

 

生まれてこのかた、硬派とは縁遠い生活を続けてはいるが、なぜか昔から上下関係だけは絶対だった。「飲むぞ」と先輩から誘われたら断れるはずもない。

万全を期して先輩との飲み会を盛り上げる、ということを口実に、ボクは久々にゴールデン街に足を運んでみることにしたのだった。

 

(続く)

<新宿ゴールデン街>
新宿区歌舞伎町一丁目にある、木造の低層長屋が密集する飲食店街。
約2000坪、テニスコートで言えばおよそ10面分くらいの広さの中に300軒以上の店舗が密集している。
1958年頃から飲み屋が密集する街となり、「新宿ゴールデン街」と呼ばれるようになった。